外来をしていると、「子供にワクチンを打ちたいけど、SNSとかで「ワクチン怖い」みたいな情報が流れてくるから心配で、、」というお話を聞くことがあります。
先日、小学校の保護者の皆様を対象とした医療講演会をする機会があり、その中で私たち小児科医が日頃から大切にしている「ワクチンの意義」についてもお話しさせていただきました。本日は、その内容を改めてブログでお伝えしたいと思います。
ワクチンについて、「自然感染の方が良いのでは?」「副反応が心配」といった疑問やお悩みをお持ちの保護者の方も少なくないでしょう。特に、大切なお子さんのこととなると、その判断には慎重になりますよね。
ワクチンは「副作用の少ない安全な代替品」です
「自然にかかって免疫をつける」という考え方もありますが、私たち医療者は、それは「副作用が非常に多い」方法だと考えています。
例えば、**おたふくかぜ(ムンプス)**を考えてみましょう。
| 項目 | 自然感染 | ムンプスワクチン接種 |
| 主な副作用 | 脳炎、難聴、不妊症(精巣炎・卵巣炎)のリスク大 | 発熱(10〜15%)、無菌性髄膜炎(0.01〜0.1%) |
| 無菌性髄膜炎のリスク | ワクチンの100倍〜1,000倍 | 比較的低い |
| 得られる効果 | 免疫の獲得 | 免疫の獲得 |
自然感染で得られる免疫は、確かにワクチンと同様の効果がありますが、その代償として、脳炎や難聴、さらには男性・女性不妊につながるリスクなど、深刻な合併症の可能性が跳ね上がります。
自然感染は、いわば「究極に副作用の多いワクチン」なのです。
一方、ワクチン接種は、その重篤な副作用のリスクを大幅に減らしつつ、同じ免疫効果を得られるように開発された「安全で効果的な代替手段」です。
ワクチンの力で「見なくなった病気」
私たちが小児医療の現場でリアルタイムに効果を感じているのが、Hib(ヒブ)ワクチンや肺炎球菌ワクチンです。
Hibは、かつて小さなお子さんの命を脅かす細菌性髄膜炎や急性喉頭蓋炎の主な原因でした。特に急性喉頭蓋炎は、喉の空気の通り道が腫れて塞がり、文字通り一晩で命を落とすこともある非常に恐ろしい病気でした。
しかし、2013年の定期接種化以降、これらの重症疾患の発症数は劇的に減少しました。かつて救急現場で緊急の気道確保(挿管)が必要だったような重症例は、今ではほとんど見られません。これは、ワクチンが多くの幼い命を救い、医療現場を変えた、まさに「劇的な成果」です。
心配なことは医師にご相談ください
ワクチン接種後に発熱などの副反応が出ると、「やはり接種しなければよかった」とご自身を責めてしまう保護者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、軽い副反応は、体が免疫をつけようと反応している証拠であり、自然感染で起こる重い合併症のリスクと比べれば、はるかに低いものです。
ワクチンは、お子さん自身を重症化から守るだけでなく、集団全体の感染症の流行を防ぎ、まだワクチンが打てない赤ちゃんや基礎疾患を持つお友達を守ることにもつながります。
接種前にご心配なことがあれば、遠慮なく当院でご相談ください。お子さんの健康と未来を守るために、適切なワクチン接種を一緒に進めていきましょう。
