最近過敏性腸症候群の相談が増えました。

「さぼり」「気持ちの問題」などと誤解されやすいですが、腸と脳の密接な関係でおこる病気です。

少し長いですがわかりやすくまとめましたので参考にして下さい。

 

         

過敏性腸症候群(IBS)とは

  腹痛や腹部不快感が2か月以上くり返し、排便の回数や便の性状の変化をともなう慢性に経過する腸の機能的な病気です。「機能的」というのは、腸管に明らかな炎症や腫瘍などの器質的な異常はなく、腸管の働きに問題があります。子どもの腹痛を起こす病気としては、頻度の高いもののひとつであり、ストレスと関係が深い病気としてよく知られています。

 

診断

  少なくとも3ヶ月以上にわたる慢性再発型の以下に示す症状を伴う。

1.腹痛あるいは腹部不快感があり、排便により軽快し、排便回数や便性状の変化(下痢や硬便)を伴う。

2.次の症状の2つ以上があり、少なくとも1つは症状がある期間の4分の1以上に起こる。

 a)排便回数の変化

 b)便性状の異常(硬便、軟便、水様便)

 c)便排出異常(便意切迫、残便感)

 d)粘液便の排出

 e)腹部膨満感

 

頻度

  成人領域の有病率は10-15%程度ですが、本邦における小児の有病率は小学生1.4%、中学1-2年生2.5%、中学3年生〜高校1年生5.7%、高校2-3年生は9.2%であり、成長とともに成人の比率に近づくといわれています。

 しかし中高生を対象に行った全国調査で18.6%という報告もあり、頻度は成人と変わらないかもしれません。

 

原因

 まだ完全に明らかにはなっていませんが、腸管の運動異常、腸管の構造異常、消化管ホルモン、内臓知覚過敏や炎症、腸内細菌叢の変調、アレルギー、免疫異常、心理社会的要因など多くの要因がかかわるといわれています。その中でも、自律神経を介した脳と消化管のシグナルの伝達経路である「脳腸相関」が病態に大きく関与していると言われています。

 

脳腸相関とは

  腸は「第二の脳」とも呼ばれ、独自の神経ネットワークをもち、脳からの指令がなくても独立して活動することができる唯一の組織です。

脳と腸は自律神経や内分泌、免疫などを介して互いに影響を及ぼしあっています。脳から腸への情報伝達(脳→腸シグナル)と、腸から脳への情報伝達(腸→脳シグナル)が、一方的ではなく双方向的に影響を及ぼしているのです。こうした脳と腸の関係を「脳腸相関」と呼びます。

 そのため、心理的ストレスが腸に影響を及ぼすだけでなく、腸内環境が悪いと脳が不安感や抑うつ感を感じるようにもなります。

脳腸相関からみた過敏性腸症候群

 IBS患者は、健常者と比較してバルーンによる大腸拡張刺激、食物、生理的/心理的ストレスなど様々なストレスへの消化管運動反応が亢進しています。つまり、通常なら痛みを感じないような刺激でも強い腹痛や激しい下痢を生じます。また、腹痛や下痢という腸の異常により、心理的なネガティブ反応(不安、絶望、不登校など)が引き起こされます。

 

治療

1)病態の理解・説明  本人と関係者が病気を理解すること。

2)生活・食事指導    暴飲暴食/刺激物を避ける。

3)対症薬物治療    セレキノン/イリボー/コロネル/ブスコパン/モビコール等

4)心理社会面への配慮

5) 認知行動療法  本人がストレスと症状の関連を理解し、「症状に精神が巻き込まれないように『仕分け』『リセット』『記憶の断捨離』を行う」

など総合的に治療を行います。

子ども、家族のみならず教育機関に対して、過敏性腸症候群は様々な原因により「腸脳相関」の異常が生じ、腹痛を感じやすくなることを説明し、子どもの苦悩を理解してもらうことだけで症状が軽快することがあります。

 

過敏性腸症候群の子供への接し方

  重要なのは周囲が子どもの症状をよく理解し、安心させてあげることです。本人は努力し、何とかしようと考えています。そのようなところに「心配しすぎだ」「気持ちが弱い」と責めたり、痛みを我慢させたりするようなことを言うことはまったくの逆効果です。むしろ思っていることを正直に伝えられなくなり、症状を悪化させることにもなりかねません。午前中に調子が崩れることが多いため、遅刻を繰り返しても無理なく学校生活が送れるよう、学校側とも連携を取るなどの対応が必要です。ストレスなど、さまざまな原因から、腸の運動異常や内臓知覚過敏が生じ、腹痛、不快感、不安感を感じやすくなっていることを周囲がしっかり理解することが重要です。

 

最後に

  過敏性腸症候群は「気のせい」や「さぼり」、「心の問題」ではありません。腸の機能的、構造的異常に精神状態が巻き込まれてしまう複合的疾患です。

思春期の過敏性腸症候群の患者では、症状が「腹痛」「下痢」「便秘」などであるため、恥ずかしさから友人との間で話題にしにくい場合が多いです。また、脳腸相関のため下痢や腹痛などの消化器症状が不登校などの心理的なネガティブ反応につながりやすいですが、本人はそのことを自覚できず客観的、合理的に判断することができません。

 また、心理的な不安(人間関係、学習面の遅れなど)があると消化器症状が悪化することも確かです。

家族や学校関係者はこのことを十分に理解し、「腹部症状」⇆「心理的ネガティブ反応」の悪循環に陥っている子どもに対して、精神論に寄らないサポートをすることが重要です。

過敏性腸症候群について.docx